エリザ「ええ、そうよね。このアタシが悩みがあるって言ってるんだから聞くに決まっているわよね! 極東のド田舎リスにも少しは学があるようじゃない!」
清姫「……今のは溜息であって応答ではありません。だいたい、独り言のような言葉に反応してあげただけでも感謝して欲しいくらいです」
清姫「貴方みたいなドラバカ娘の話を聞く人なんてどこにいるんでしょう。ああ、哀れね、本当に哀れ。……それでは、わたくしは旦那様の元に行くのでこれで」
エリザ「え、何? 聞いてくれないの? 話、進まないんだけど! ねぇ、本当に聞いてくれないの!?」
清姫「聞く義理も人情も貴方に対しては持ちあわせていませんから」スタスタ
エリザ「ちょ、待ちなさいよ! 待ってよ! 待ってくださいお願いします! 話を聞いて下さいぃぃぃっ!!」
清姫「…………ああもう! うるさくって堪らない! 焼き殺しますわよ!」
エリザ「止まった! ということは聞いてくれるってことでいいのよね! もう、素直じゃないわねこのリスは!」
清姫「……逃げられませんわね、これは。…………ああもう、くだらない話だったら本当に焼き殺しますから覚悟しなさい。どうせくだらない話に決まってますけど」
エリザ「大丈夫よ、貴方にも関係があるんだから。それじゃあ早速話すことにするわ。アタシの悩み、それは……」
清姫「……」
エリザ「アタシ、いま自分のキャラクターについて悩んでるのよ。そう……アイドルとしての、自分自身に! ……どうかしら?」
清姫「ああそうですかそれはタイヘン頑張ってくださいね。それでは」
エリザ「ちょーっと待った! まだ序盤! プロローグの最初の一文みたいなものなんだから!」
清姫「じゃあさっさと話を進めなさいよっ! 何よ、どうかしらって! いちいち反応求めてるんじゃないわよ!」
清姫「しかもわたくしと一ミリも関わりがないじゃありませんか! ああもう、イライラして今にも転身してしまいそうですわ……!」
エリザ「落ち着きなさいよ、みっともない」
清姫「誰のせいだと思ってるんですかこの……!」
エリザ「あのね、アタシは思ったのよ。アイドルという概念は素晴らしいわ。それ自体には何の問題もない。アイドルという単語には今だって魅力が満ち満ちているの」
清姫「平然と続けるんですね……疲れる……」
エリザ「けれど、ええと、なんて言ったらいいかしら、その……そうね……」
清姫「……悩みが決まってないんですか?」
エリザ「うーんと……そう! このままじゃ、アタシ自身が飽きられてしまうこともあるかもしれないわけじゃない!?」
エリザ「知らない貴方に説明すると、アイドルには『旬』という概念も悲しくも付いてきてしまうの」
エリザ「旬が過ぎたアイドルは忘れ去られ、風化して、誰も振り向いてくれなくなる……あんなに身近にあって輝いていた表舞台が、遠くに感じてしまうようになる」
エリザ「ずっと付いてきてくれる子ブタ達だって確かにいるわ。けど、それが末路なんだとしたら、とっても悲しいことじゃない?」
エリザ「アイドルというキラキラして眩しい存在が、そんな結末になるなんてアタシは嫌なの!」
エリザ「だから、アタシは今のうちに、他にアタシが出来ることも模索しておくべきだって考えたのよ!」
清姫「へー」
エリザ「へーって。……え? 何? 今のを聞いて全然関心が浮かばなかったっていうの!? ビックリしたわよ!」
清姫「こっちがビックリよ、あまりの下らなさにっ!!」
エリザ「でね、ここからが本題なんだけど」
清姫「反応したら話聞いてくれるって認識するの辞めなさいよ!」
エリザ「貴方も、アタシとは違うとはいえ同じ竜種として考えてもいいじゃない? いえ、むしろ一番近いんじゃないかしら。デミ・ドラゴン的な意味で」
清姫「一緒にしないで戴けます……!? 貴方は無辜の怪物によって常に、対してわたくしは転身で竜へと変わる。というか大蛇に。全く違うものです!」
エリザ「それでも、アタシの気持ちが少しは伝わってもいいでしょう? 同じなんだから、悩みだってきっと理解してくれると思ったのよ!」
清姫「残念ながら! ええ非常に残念ながら! 同じではないので! 全く! 一ミリも! 塵の一つ分たりとも! 理解はできません!!」
エリザ「でも、貴方だって子イヌにはチヤホヤされたいって思わない? ストーカーなんだから」
清姫「だから! ストーカーではなく『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です! それに子犬って……ああ、旦那様のことをそう呼んでいましたわね、貴方は」
清姫「別に、わたくしは旦那様にチヤホヤされたいなんて、そんなことは……そんな、こと、は…………うふ、うふふふふふふ」
エリザ「相変わらずのチョロさね。……妄想に入るのもいいけど、もうひとつ本題があるのよ。アタシの別の方向性が見つかるまで協力してくれないかしら?」
清姫「ああ、旦那様そんな、私と貴方ではまだ早いですわ……でも旦那様が望むなら私は、ええ、なんだって協力しますわ……」
エリザ「決まりね! それじゃ行くわよ! 最初に相談する相手はもう決めてあるの!」グイッ
清姫「ご、強引に手を引いて大胆すぎますわ……って! 何!? 何をしてるんですか貴方は! ちょ、どこへ行くんですか!」
エリザの悩み~アルトリア編~
エリザ「やっぱり、同じ竜種としてあの人には聞かざるをえないわね! かの高名な騎士王!」
エリザ「ブリテンの赤き竜(ア・ドライグ・ゴッホ)たるアーサー王なら、きっとアタシの悩みなんて数秒で解決してくれるわ!」
清姫「雑竜種(デミ・ドラゴン)と竜王(ペンドラゴン)を一緒に扱うなんてどこかに怒られますわよ……」
エリザ「王様なら器だってキング級に決まってるじゃない! そんなもの、躊躇する理由になんてならないわね」
清姫「くれぐれもあの方を怒らせるようなことは言わないでください。貴方も私も一撃で葬られますわよ。相性的な意味でも」
エリザ「そんなわけでハロー、ペンドラゴン様!」
アルトリア「む、私のことをそう呼ぶ者と戦ったのはいつのことだったか――と、貴方は確かランサーの……エリザベートでしたね。そちらは、ええと、清姫」
エリザ「覚えて頂けているようで光栄だわ! これはもう解決したも同然ね!」
清姫「……あの、失礼ですが貴方と直接言葉を交わしたことがなかったような気がするのですけれど……なぜわたくしとこのドラ娘の名前を?」
アルトリア「ええ、貴方がたは有名ですから」
清姫「……理由は聞かないでおきますわ」
アルトリア「賢明な判断だ、狂戦士。それにしても噂通り、バーサーカーとしては驚くほどに意思疎通がスムーズなのですね、貴方は」
エリザ「ちょっとちょっとアーサー王? 今回のメインはこのリスじゃないの。アタシよ」
アルトリア「ほう。貴方が私に何か用があるのですか?」
エリザ「ええ、そうよ。一つ悩みがあるのだけど、聞いてくれるかしら? 同じ竜種のよしみとして」
アルトリア「悩み事、ですか。ええ、いいでしょう。一国の王として生きてきたこの身の上です、煩悶の苦難から開放される手段としてその立場が役立つのなら、協力は惜しみません」
エリザ「……さすがの威光だわ。ええ、それじゃあ聞いてちょうだい。このアタシの悩みを!」
~~エリザ説明中~~
アルトリア「はあ。つまり貴方は、その、アイドルとしてではなく、別の概念を見出したいと?」
エリザ「そう、そういうことなのよ! 話が早くて助かるわ!」
清姫「……話半分でいいと思いますわよ、アーサー王」
アルトリア「まあ、悩み事には変わりありませんから。しかし、そうですね、アイドル……。ふむ、貴方は、アイドルのどこに魅力を感じたのですか?」
エリザ「アイドルの魅力? それはもう、可愛いことだけ求められて、チヤホヤされることが仕事なんて夢の様じゃない!」
アルトリア「……な、なるほど。つまりは皆から愛されたいと、そういうことですか?」
エリザ「―――――」
清姫「……ちょっと、エリザベート?」
エリザ「……あっ、ご、ごめんなさい。ええ、そういうことで構わないわ」
アルトリア「ふむ。それなら私よりは適任の者がいるでしょう」
エリザ「……どういう意味かしら?」
アルトリア「私は、皆から愛されていたような存在ではありませんから」
エリザ「え? でも貴方は、王として国民から愛されていたんじゃないの?」
アルトリア「確かに私は、王として民を導きはした。愛してもいた。国民もそうして、私を推してくれてはいました。ですが私は、身近な者達からの愛は受けられなかった」
アルトリア「いわく、『王には、人の心が分からない』と。……そんなことを言われた人間から答えを聞くよりは、真に愛されている御仁からアドバイスを貰うべきでしょう」
エリザ「アーサー王……そっか。ご、ごめんなさい、そんなことを言わせるつもりじゃあ無かったのだけど」
アルトリア「いえ、そう気に病む必要はありません。私はもう答えを得ている。いえ……答えを得る気がしている。うーん、これは英霊としての記憶のせいでしょうか、曖昧で申し訳ない」
アルトリア「ですが、ええ、お気になさらず。私はもう、その言葉を受け入れて、認めて、それでも前を向けていますから」
エリザ「受け入れて、認めて……それでも、前を……」
清姫「……?」
アルトリア「ええ。あ、そうそう、その愛されている御仁というのはですね――」
エリザの悩み~マリー編~
エリザ「なるほど、盲点だったわ。無闇にロイヤル感振りまいちゃってる女王、マリー・アントワネット」
エリザ「たしかにアタシも、アイドルとしてあの座まで登りつめなきゃいけないって考えていたわね」
清姫「……そろそろ開放していただけないかしら」
エリザ「何言ってるのよ。せっかくだから貴方もアイドルのなんたるかを学んで子イヌにアピールしていけばいいじゃない」
清姫「ありがた迷惑という言葉を知っているかしら? ……それにしても、貴方は旦那様に興味はないの?」
エリザ「え、あのマスター? うーん、専属マネージャー枠は埋まってるから……アタシ付きのADとしてなら考えてあげなくもないけど」
清姫「もういいです。聞いた私がバカでした」
エリザ「? 何なのよ一体。あ、いたわねマリー・アントワネット。なんか他に三人くらいいるけど」
清姫「ああもう、トラブルの予感しか見えない……」
デオン「む……止まれ。それ以上王妃に近づくことは許されない」
マリー「あら? 来客かしら。デオン、そう無闇に剣を構えるべきではなくってよ」
サンソン「そうだシュヴァリエ。王妃がこう言っているんだ、剣を納めた方が良いと僕も思うね」
デオン「し、しかし、王妃にもしものことがあってはと……」
アマデウス「ま、ぶっちゃけここはカルデア内なわけだから敵がいるわけないんだよね。いたとしたらもっと騒ぎになっているだろうから」
デオン「正論で私を納得させようとしても無駄だぞ! お前の言葉は私には届くことはない! この変態め!」
アマデウス「……なんで君はそんなにも僕を嫌うんだ。それにしても……声を聞きたくないコンビが来たな」
マリー「まあ、アマデウス。あの方達を知っているの?」
アマデウス「ああ、そうか。マリアは直接の面識がなかったね。アイツらは……そう、なんと言っていいか……僕の天敵というか、音楽という概念そのものの敵というか」
エリザ「ちょっと! 仮にもアイドルのアタシを掴まえてそんな言い方、失礼にも程があるんじゃない!?」
マリー「そうよ、アマデウス。こうして聞いているだけでも素敵な声色じゃない。そんな暴言は吐くものではないわ」
清姫「というか、お願いだから一緒くたにしないで戴けますか……」
アマデウス「ああ、そうだね。声色は認めざるをえない。たしかにいい声だ。だけどね――」
エリザ「何よ! そんなに文句があるならここで特別に歌ってあげてもいいわよ!? 素晴らしすぎて、聞き惚れて、卒倒すること間違いなしなんだから!」
アマデウス「嗚呼、何ということだ……! 君は自身の宝具がそういう効果だと思っていたのか……!」
デオン「ともかく。お前達はこれ以上近づくんじゃない。血の臭いがキツすぎる」
エリザ「え? ブラッドバスはやらなくなって久しいんだけど、そんなに匂うかしら。まあ、ここからでも話は出来るし構わないわよ」
清姫「だからぁ、一緒くたにしないで戴けますかぁ……」
~~エリザ説明中~~
サンソン「つまりはなんだい、君はマリーになりたいのかい?」
エリザ「そうじゃないけど……そうなのかしら? 存在としてはそうね、近づきたいと思わなくもないというか……なんというか……」
デオン「それはムリだな」
サンソン「ムリだね」
マリー「それじゃあ、私達お友達になりましょうよ!」
デオン&サンソン「王妃!?」
エリザ「と、友達……!? お父様、私、ついに初めてのお友達が……あれ、なんだかデジャヴ。ってそうじゃない。ら、ライバルとして、アタシと貴方では、馴れ合うことはできないわ……!」
マリー「まあ、残念だわ。貴方、とっても可愛らしいんだから、お友達になりたかったんだけど……」
デオン「貴様、王妃の誘いを断るとは何事か!」
サンソン「よしシュヴァリエ、手を貸そう! 断頭台の準備は出来ている!」
エリザ「えぇ……何なのこいつら、面倒くさい」
清姫「……エリザベートに言われたらお終いですわね。まあ、同感ですけれど」
アマデウス「ああもう、やめてくれたまえ君達! せっかくの憩いの時間が台無しだ! 空間も空気も、全てその雑音に汚されていく!」
デオン「そんなに嫌ならお前だけウィーンに帰れ!」
マリー「ちょっと、喧嘩を始めるならこの会はここでお開きよ。それより、エリザベート?」
エリザ「な、何よ?」
マリー「貴方の悩みにお答えするわ。と言っても私はね、そう望まれたから偶像としてあっただけなの」
エリザ「望まれたから?」
マリー「ええ、そうよ。民は私に微笑みを求めた。だから微笑んだ。民は私に寵愛を求めた。だから愛した。そして――憎悪の対象としても、私を望んだ」
マリー「けれど、それを恨んだことはないの。ええ、それでも、息子を殺されてしまったことは、少しだけ憎く思う所はあるのが正直な気持ちよ」
マリー「それでも私は、微笑みを絶やさない。そんな気持ちは、出すことはない。だって、そんな姿を、求めていたはずがないのだから」
マリー「いつだって、笑顔でヴィヴ・ラ・フランス(フランスに栄光あれ)!」
マリー「空に輝きを。地には恵みを。――民に、幸せを。それだけを胸に、最期まで生きていただけのことよ」
エリザ「望まれた、から……。ね、ねぇ、貴方はどうして、民からそう望まれたと考えてる?」
マリー「そうね……人の気持ちは移ろい行くものだから。ただ、受け入れただけよ」
エリザ「疑問は挟まなかったってこと……?」
マリー「ええ、そうなるわ。私の愛したフランスが、そう望んだのだから」
エリザ「だ、だったら! ねぇ、だったらアタシは――」
マリー「ええ、なあに?」
エリザ「……っ…………いいえ、なんでもないわ。ありがとう、マリー・アントワネット。素晴らしいアドバイスだったわ」
エリザ「貴方のこと、その……少し、失礼な風に誤解していたみたい」
マリー「うふふ、気にしないで。お役に立てたなら幸いだわ。またいつだって来て頂戴。私は貴方を歓迎します」
アマデウス「僕は反対だけどね」デオン「同意したくはないが、私もだ」サンソン「僕もだね」
マリー「もう! 貴方達は!」
マリー達の元を去った後、カルデア内のどこかの廊下にて
清姫「貴方……さっきの最後、何を言い淀んだんですか?」
エリザ「え? えーっと……何でもないわよ」
清姫「何か隠してませんか?」
エリザ「何でもないったら!」
清姫「あら、ムキになるなんてますます何かあるって言ってるようなものですわよ。わたくし、嘘は嫌いですが隠し事も嫌いです」
清姫「ここまで協力したんですから、話してくれてもいいんじゃないですか?」
エリザ「…………それは、その」
???「あら……目障りな小娘がいるわね」
エリザ「あんた……カーミラ……!」
清姫(あれは確か、エリザベートの未来の……ん? 未来? …………ああ、成程)
カーミラ「ふん。何をちょこまかと歩き回っているのかしら。全く、鬱陶しいったら。霊体化でもして消えていなさい」
エリザ「な、何よ! そんなに目に入るのが嫌なんだったら、あんたが消えればいいじゃない!」
カーミラ「私は消えない。……消えることはないわ。貴方だって、それは理解しているでしょうに」
エリザ「…………」
カーミラ「分かったのなら、早く失せなさい」
エリザ「一つだけ、聞かせて。……あんた、後悔はしてたりするの?」
カーミラ「はっ! それを貴方に言ってどうなるのかしら。聞かせるつもりなんて毛頭ないわ」
エリザ「……そう。なら、いいわ」
清姫「……はぁ、面倒くさいですね、貴方は」
エリザ「清姫……?」
清姫「ちょっとよろしいですか、カーミラさん?」
カーミラ「……誰かと思えば、東洋の蛇女ね。貴方の血には興味なんてないわ」
清姫「それは助かります。ええ、今は少しばかりお話を聞いて欲しいだけなので」
カーミラ「さて? いま私はすごく不機嫌なのよ。下らない話を始めたら、ここで事を構えるのも吝かではないと覚えておきなさい」
カーミラ「貴方の血でも慰み程度にはなる。そこの女は無残に[ピーーー]だけでしょうけどね」
エリザ「言ってくれるじゃない……!」
清姫「そこまで。槍を収めて頂戴」
エリザ「だって!」
清姫「いいから、ここはわたくしに任せなさい」
清姫「下らなくなければいいんですよね? ええ、それで結構です」
清姫「……今日は少し、こちらのエリザベートに付き合っていたんですよ。まあ、流れ上仕方なくという感じですけれど」
清姫「貴方がたはお互いに嫌悪しあっている。嫌な未来の存在と嫌な過去の存在。簡単に言ってしまうとこんな所のはずです」
清姫「まあわたくしも、基本的にはエリザベートみたいなタイプは苦手なんですけれど……。今日一日付き合って、一つ、分かりました」
清姫「この子も、この子なりに色々と考えているようですわ。―――未来に待つ『あなた』という結末を、受け入れたくて、でも否定だってしたい」
エリザ「ちょ、ちょっと何を」
清姫「いいから黙ってなさい。……だからこのドラバカ娘は、アイドルを目指した。それはきっと前を向く方法の一つでしょう」
清姫「かつて貴方は皆から憎まれ、恐れられ、その末に孤独に死んでいった。その結末を、知っていようとも。いえ、知っているからこそかしら」
清姫「ともかく、だからこそアイドルに憧れた。その憧れは目標になって、やがて訪れる結末すら変えてくれるかもしれない」
清姫「そんな未来はないと解っていても、そう望まずにはいられなかった」
清姫「誰からも想われなかった生前とは違う。『誰からも愛される存在でありたい』と望んで、それを目指したんです」
清姫「きっと貴方に出会って不安になったんでしょう。『このままアイドルを目指し続けていても未来が変わらないなら、受け入れることだって出来ないんじゃないか』って」
清姫「エリザベートがこの話を持ちかける時に一度まごついていた意味がようやく分かりましたわ。素直に言えばよかったじゃない」
清姫「自分を変えたかった。もっと簡単な解決方法としては『カーミラと話がしたかった』と。……ふう、思春期真っ盛りでこっちの顔が熱くなりそう」
カーミラ「……そんなもの」
清姫「ええ、この自分を変えた所で未来を変えるなんていうことは不可能です。ましてや、存在としてはわたくしも含めて過去なのですから、意味だってない」
清姫「それでも、その努力はね……少しの間、側で見ていた『友人』としては、いじらしく感じてしまうものなんですよ。貴方はどうですか、カーミラ」
カーミラ「……鬱陶しいだけじゃない。無意味に足掻くことなんて、それは時間の浪費に過ぎないわ。私はね、この子のそういう所が憎くて憎くて堪らないのよ」
清姫「結果だけ見れば、そうなのかもしれませんけれど。エリザベートだって貴方だって、迎えた結末を善しとは思っていませんでしょう?」
清姫「けれど貴方はとうの昔に事実を受け入れている。この子はまだ出来ていない。だから、その方法を模索している」
清姫「それは、カーミラさん。貴方の存在も、受け入れたいからなんだと思いますわよ」
エリザ「…………」
カーミラ「……話がしたいなら、そうしたいと言えばいいじゃない。もっとも、応じるかどうかは気分次第でしょうけれど」
清姫「ええ、今はそれだけ聞ければこのドラ娘も満足でしょう」
カーミラ「……ふん。貴方も、存外に眩しいわね」
清姫「はて、何のことでしょうか」
エリザ「清姫、アンタ……」
清姫「全く、色々な人を巻き込みすぎなんですよ、貴方は。最初から素直に話していればこんな回り道はせずに済んだのに」
エリザ「そうじゃなくって、友人って……」
清姫「そんなこと言いましたっけ? 全く記憶にないんですけど。言ったとしてもその場しのぎじゃありませんか?」
エリザ「アンタね、嘘が嫌いなくせにそんな嘘をつくわけ?」
清姫「嘘は嫌いですが嘘を吐くのが嫌いだなんて言ってませんけどね」
エリザ「アンタこそ全然素直じゃないじゃない!」
清姫「どこぞのエリマキトカゲよりはずいぶんマシですわよ」
エリザ「何よこの……!」
清姫「何ですか……!」
エリザ「アンタなんか、その……その! ………………あ、ありがとう」
清姫「―――ま、まあ、これで解決したなら良かったんじゃないですか」
エリザ「あ、でも別の方向性ってのは決まってないわよね。可能性は広げていくに越したことはないわ」
清姫「は?」
エリザ「だって、アタシは皆から愛される『アイドル』なんだから! 色んなメディアに露出するのはアイドルの常識よね! さて、そうと決まれば次は誰に相談しようかしら」
清姫「……さすがに勘弁して下さいますか」
終わり
エリザベート・バートリ(バートリ・エルジェーベト)
史実に存在し、実在が確認されている人物。1560年生、1614年没。ハンガリー家の名家、ドラゴンの歯を紋章とするバートリ家に生まれる。
美しい吸血鬼カーミラのモデルのひとりであり、600人以上の娘の生き血を浴び、己の美貌を保とうとした悪女とされている。
バートリ家は東欧圏のほとんどに勢力を持つ名家であり、彼女はさらにハブスブルグの血をも引く貴族のサラブレッドと言える血筋を持つが、近親婚や鬱蒼とした生活環境等の要因で狂気と残忍さに彩られた者が多いバートリ家の宿命から逃れることはできず、彼女自身もまた狂気を孕んでいた。
むしろバートリ家の中でもその狂気的行動が著名な人物であり、現在のスロバキアにあった自城のチェイテ城にて、600人以上の少女を拷問の末に殺し、その生き血を使用したブラッドバスを好んだとされている。
当時、貴族にとっては自身の領地の平民はペットと同列の存在というのが常識であり、彼女の虐殺に眉をひそめはしても、咎める者は周囲にいなかった。
しかし、その残虐行為の魔の手が貴族の娘にまで伸びたこと、一人の少女が彼女の監禁城から命からがら逃げ出して助けを求めたことで、ついにその残虐行為の咎を受けることになる。
1611年、当人欠席の上での裁判で有罪判決を受け、彼女はチェイテ城の一室に幽閉された。
娘を差し出した父や、彼女の親族、貴族社会の同胞達は自らの罪悪感を隠すように彼女の牢獄を石で覆い隠し、彼女は「なぜ?」「どうして?」「私、何も悪いコトはしていないのに」と窓すらもない密室の中で訴え続けたが、うるさく思った兵士に明かり窓を塞がれ、ついに訴えることもしなくなった。
1614年8月21日。明かり窓を塞がれて以降、生きた姿を直接見た者がいなくなった彼女は、食事の腐敗臭に気付いた兵士により、絶命を確認された。以後、彼女は血の伯爵夫人として伝説となった。
TYPE-MOON wikiより抜粋
あそこはコロコロさんされるって書いてあります、書かなくても分かると思うけど
ちゃんと言うとコロコロさんス、だけ
ヤンデレバーサーカーだけどきちんと考えてる辺り素敵だよね清姫