FateGOの地の文つきSSです
宝具の身代わりにされ続けて若干病んでいたマシュが黒髭とドレイク船長にお悩み相談してもらいます
時系列とかレイシフトの細かい設定とかはあんまり突っ込まないでください
完結済みなので最後まで一気に投下します
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――――」
耳障りな吐息が、暗い密室にこだまする。
ぽたりぽたりと滴り落ちる粘質な水音。
串刺し程度の痛みならば、とうに体は慣れている。
元より、この身は盾として在るのだから。
ただ、痛いというだけで音を上げるようでは、到底務まるはずもない。
だが、これは。
これだけは堪え難い。
「あぐっ……あぁ、ああああ……っ!」
全身二十七ヶ所、鋼鉄の針による穿孔痕が発火する。
針自身が栓となっているはずなのに、どくどくと血液が流失していく。
激痛を訴える信号が、今頃首のあたりで大渋滞を起こしているに違いない。
吸血鬼カーミラ。
領地の若い娘を城に招き、残虐この上ない方法で殺戮した、血の伯爵夫人。
彼女の持つ宝具『幻想の鉄処女』は、女性に対して特攻効果を有する。
ギチ、ギチ、ギチギチギチギチギチギチギチ――――
閉じきったはずの鉄処女が軋みを上げる。
構造上、扉が閉まれば、針がそれ以上刺さることはないはずだというのに。
どうやら、鉄処女自体が収縮することによって、さらに深く対象を傷つける仕組みになっているらしい。
「―――――っ!」
泣いてはダメだ。悲鳴を上げてはダメだ。
シールダーの自分は、盾役としてパーティを敵サーヴァントの宝具から身を挺して守ることが役目なのに。
苦痛を訴えたりなんかしたら、先輩は私を使ってくれなくなる。
『ずいぶんしぶといのね、シールダー。ええ、良くてよ。生娘の新鮮な血は何よりの美味なのだから、精々長生きしてちょうだい』
虚ろに反響するカーミラの声。
鉄処女に染みこんだ血液は、そのまま彼女の糧となる。
それではいけない。私が生きていると、先輩たちはどんどん不利になってしまう。
戦闘不能に陥った際、霊核をごくわずかに修復し、最低限の行動をとれるようになる。
この効果によって、私の身体はかろうじてこのオルレアンに留まっていた。
『――聞こえるか、マシュ』
不意に、先輩からの念話が届く。
霞んでいた意識をかき集め、精一杯の虚勢を張った。
「はい、聞こえています。先輩、指示を」
『――ヘラクレスが危ない。「時に煙る白亜の壁」を彼に掛けてくれ』
分かっている。
スキルを使い終わった私は、お荷物でしかないことなど。
宝具の身代わりとなり、即座に戦闘不能になってくれた方が、パーティの勝利に貢献できる。
ただ。
「――最大火力、発揮します」
それを、どうして私に掛けさせてくれなかったのか、なんて。
心の中で思ってしまうことくらいは、許して欲しかった。
串刺しの夢から蘇生する。
そこはひんやりと冷たい霊子筐体の中であり、間違っても鉄臭い拷問器具の中などではなかった。
『お疲れ様、マシュ。今日はゆっくり休むといいよ』
「……はい、ドクター。お言葉に甘えさせていただきます」
いつもと変わらない、のんびりしたドクターの声がスピーカーから聞こえる。
戦闘不能になってカルデアに帰還したサーヴァントに、彼は必要以上に構うことはない。
レイシフト先での死は、いわば悪夢に近い。
これといった外傷もないのだから、ドクターとしては手のつけようがないのだろう。
とはいえ、擬似的な死を体験した相手に軽口を投げかけるのも気が引けるのか、普段の軽薄さは幾分鳴りを潜めている。
霊子筐体から降り、出口に足を向ける。
――――意識して、身体に穴が穿たれていないことを、確かめないようにした。
あるはずはない。アレは全て霊子化した自分に起きたコトだ。
カルデアにいるこの自分に、それがフィードバックされるなど、あってはならない。
左眼球、首筋、右肩甲骨、肝臓、胃、膵臓、子宮、直腸、その他多数箇所を、麻酔もなしに一気に貫かれたのだ。
常人ならば、それだけでショック死ものの激痛だっただろう。
――――ぽたりぽたりと、赤い何かが滴り落ちる。
ふと足元を見ると、バケツをひっくり返したような血溜まりが出来上がっていた。
『マシュ? どうしたんだい、さっきからずっとそこで立ちっ放しだけど』
ドクターの言葉で我に返る。
管制室の床は、ほこり一つ落ちていない清潔ぶりだった。
「……すいません、ドクター。少し、めまいがして」
『本当かい!? それは大変だ。念のため、ダ・ヴィンチちゃんのところで診察を受けてくれ。僕は今、手が放せないんだ』
コンソールにかじりつきながら、しきりに首をひねっているドクターの姿が遠くに見える。
レイシフト先で何か問題が起きたらしい。
これも、いつものことだ。
『しかし、デミ・サーヴァントの君が立ちくらみを起こすなんてずいぶんなことだよ――うわ、ちょ、何だ急に!? くそ、通信が……!』
慌ててあちこちのパネルをいじるドクター。
専門でないオペレーションを任されながらも、彼は必死で自分の仕事をこなしている。
たかだか立ちくらみ程度で弱音など吐いていられない。
「では、失礼します、ドクター」
一声掛けてから、中央管制室を後にする。
ドクターの返事はなかった。
「おぉ!? 奇遇ですなあマシュ殿~! 今日も相変わらず健康的なお身体をしていらっしゃる!
しかし……むむ、惜しい! 後もう少し早く出会っていたら、拙者とマシュ殿が曲がり角で正面衝突して、超古典的ラブコメ展開が発生していたのですが~wwww」
「……あ、どうも。黒髭さん、お疲れ様です」
通路が緩やかなカーブに差し掛かったところで、ぬっと目の前に巨体が姿を現した。
二メートルを優に上回る筋骨隆々な肉体を持ちながら、軟派なことこの上ない大海賊。
導火線を編みこんだ黒い髭は、本人曰くおしゃれなのだとか。
ただ、これが彼なりの女性に対する挨拶のようなものだということは理解できていた。
時折用いる『わらわらわらわら』という奇妙な語尾には、もう触れないことにしている。
「して、マシュ殿はレイシフトからのお帰りで? って、この先には中央管制室しかないのだから当然ですなあ。いや、失敬失敬、愚問だったでござるな、デュフフフ」
「……あ、はい」
自問自答は一般的にバッドコミュニケーションであることを、誰か教えてあげてほしい。
「ふむ、そのご様子ですと一人だけ先に乙ったものと思われますが?」
「……はい。カーミラさんの宝具を受けてしまいまして」
「あっちゃああああ!! アレはキツいですぞ~。男の拙者でも秘蔵のコレクションを白日のもとに晒されたがごとき苦痛だったというのに、女性であるマシュ殿ではひとたまりもないでしょうなあ」
ま、拙者はガッツ持ちなんで耐えましたが、と胸を張る黒髭氏。
いまいち痛みの度合いが分からなかったが、とにかく彼にとっても宝具の直撃は好ましくないらしい。
「いや、それはちょっと……」
さすがに話を盛っているだろうとは思ったが、氏の生前の逸話を思えばさもありなんである。
――――エドワード・ティーチ。
カリブ海を股にかけ、幾多の大船団を率いて貿易船を襲い、巨万の富を手に入れた男。
その最期は、軍の襲撃を受けた際、全身に二十数箇所の刀傷と五発の弾丸を浴びながら戦い続けるも、銃の装填中に敢えなく力尽きたのだとか。
氏の耐久ステータスは、私と同格のAランク。
非常に単純な言い方をすれば、彼に耐えられて私に耐えられない攻撃などないということだ。
「今はこうして道化に甘んじているでござるが、いざ戦いとなれば拙者は非情な戦闘マシーンと化し、迫り来る敵からヒロインを守るために千切っては投げ、千切っては投げの大奮闘を見せる予定でござるよ!」
「えっと、そのヒロインというのはどなたでしょう?」
「ちょっと黒髭! デカい図体してボケっと突っ立ってるんじゃないよ! そこどきな!」
がはぁ! とちょっとかっこいい悲鳴を上げながら、思い切りつんのめる黒髭氏。
その後ろには、ヤクザキックを振り切った姿勢のドレイク船長がいた。
「こ、このBBA! せっかくの拙者とマシュ殿の語らいを邪魔立てするとは……! これだから更年期は嫌でござるなあ!」
「何言ってんだい。サーヴァントに更年期なんかあるもんか」
彼女はカルデア内では数少ない、氏に対する処方箋として、女性サーヴァントの間で人気を集めている。
「ドレイクさん、お疲れ様です。これからレイシフトですか?」
「ああ。マスターがお呼びみたいだからね。これからちょいと行ってぶっ放して来るのさ」
強力な自己強化スキル『嵐の航海者』とNPチャージスキル『星の開拓者』を持つドレイク船長は、いつも引っ張りだこだ。
彼女の宝具『黄金鹿と嵐の夜』は、生前に率いた大艦隊と火船による圧倒的大火力で、あらゆる敵を殲滅する。
宝具の威力が彼女自身の財力に依存するという不思議な性質があり、よく職員やサーヴァントに金品をたかっている。
ちなみに一番被害額が大きいのはドクターだ。
「心配ご無用。アタシにはマスターがついてるからねえ、そうそう簡単にはくたばらないよ」
――――私にも、先輩がついてるのに、いつも私は。
「どうしたんだいマシュ? いつにもまして顔色が悪いじゃないか。ちゃんと栄養とってるかい?」
「デュッフッフ。そんなことはマシュ殿のお胸のマシュマロを見れば一目瞭然……ぶほぅ!? ちょ、心の準備ができてないときの不意打ちは卑怯でござるぞBBA!」
「不意打ちってのはそういうもんだろう? って、アンタなんかと夫婦漫才やってる場合じゃないんだ。こちとら忙しいんだよ」
――――鉄針によって穿たれたのは、カラダではなくココロの方。
ぽっかりと空いた空洞から、どす黒いモノが溢れ出す。
救えない、救われない、何の報いももたらさない、ただワタシを苦しめるだけの悪感情。
噴きこぼれた悪心が、ワタシの無価値を嘲笑う。
オマエの生に意味はない。
元より使い潰されるだけの乱造品が、何の値打ちを矜るのか――――
「だからさっさと行けって言ってるでござる!」
「うるさいねえ、アンタに用はなくてもマシュにはあるんだよ。……マシュ、アンタなんかつまんないこと考えてるだろう?」
不意な問いかけに、思わず間の抜けた返事をしてしまう。
呆れ顔のドレイク船長が、腰に手を当ててこちらを見下ろしていた。
「あ、いえその、本当につまらないことと言うか、お話するほどのものでもないくらい、大した悩みではないというか――――」
「悩みが大きいか小さいかなんてアタシにゃ分かりゃしないよ。アンタにとって重大な悩みなら、そいつはどんな大時化(おおしけ)よりも恐ろしいものなんだろうさ」
「それは……はい、確かにその通りだと思います」
「ま、アンタみたいな繊細なのが抱えるような悩みとはこちとら無縁だったからねえ……女としての相談なら他当たんな。アタシじゃ役不足だよ」
すいません、本当につまらない突っ込みを入れたくなったことを許してください。
「プークスクス! 誤用乙でござるな~wwww 役不足というのは他人を褒めるための言葉であって、自分で言うような言葉では――――」
「ちょっと黙ってな」
「あい」
塩を掛けられたナメクジのように縮こまる黒髭氏。
ドレイク船長を前にすると、やけに余計な茶々が増えるのは何故なのだろうか。
「それは……そうですけど、でも」
「自分で解決できる悩みなら、考えるより行動すればいい。自分じゃどうしようもない悩みなら、時間が解決してくれるさね。ほら、どっちみち悩んだって何にもならないだろう?
あとほんの数マイル進めば陸地が見えるかもしれないのに、嵐の中で立ち往生してるなんて馬鹿げてるにも程がある。
今がどんなに大変でも、手に入れたお宝のことを思えば屁みたいなもんじゃないか」
「――――――」
それは、強い人の言葉だと思う。
誰もが彼女のように、荒波を突っ切って進んでいくことのできる力なんて持っていない。
どうしようもない事態を前にして、為すべきことも分からないほどに追い詰められてしまう弱い人間の気持ちは、彼女にはきっと分からない。
けれど、それはフランシス・ドレイクにとっては問題ではないのだろう。
星の開拓者は、その不可能さえも可能にする。
理解できないままに、他人の不可能を救済し、その弱さを解消する。
「……本当に、かっこいい方ですね、ドレイク船長は」
何というか、不条理だ。
相談もしていない悩みを勝手に解決してしまうなんて、型破りにも程がある。
まるで、肩についた綿ぼこりを払うかのようにあっさりと。
それだけ私の悩みなど、彼女にとっては些細なものだったということだろう。
「はい。ドレイク船長はお金でしか動かない人ですから、お世辞なんか言う必要はありません。これは私の本心です」
「アッハッハ! こりゃ一本取られたねえ! マシュ、アンタも言うようになったじゃないか」
「むぅ……何やらBBAとマシュ殿が親愛度を高めてござるな。もしや、これが禁断の百合BBAルート……うっぷ、分岐した時点でバッドエンド確定! 発禁ものですぞこれは!」
「さっきからガタガタうるさいんだよ! 何でアタシが女のマシュを抱かなきゃならないんだい?」
「ぬわぁああああ! やめなさい、拙者の脳内を最悪のイメージで汚染するのは! も、網膜にブラクラが貼りついてしまって剥がれなくなってござるよ! どうしてくれるでござるか!」
「知ったことかい」
意外に俊敏な動きで去っていった黒髭氏は、何故か少しガニ股だった。
「……何故でしょう、無性に寒気がするのですが」
「あーやだやだ。これから戦いだってのに、鳥肌が止まらないよ。これじゃブルってるみたいじゃないか」
ぶつくさ言いながら、ドレイク船長も中央管制室の方へ歩いて行く。
と、ぴたりと立ち止まって、
「そうだね。アンタの悩みなんかマスター絡みのことくらいなんだから、それこそマスターにでも抱いてもらえばいいじゃないか。うん、それで皆解決だ。アタシの出る幕はないね」
「そ、その必要はありませんっ。カルデアからの魔力供給は十全ですから、私の問題は魔力の不足に起因するものでは」
「違う違う。魔力がどうたらなんて小難しいコトは置いといて、ただ何も考えず一晩中抱かれてりゃ、大抵の悩みなんて吹っ飛んじまうだろうよってことさ」
「え、えーと……貴重なご意見として、検討させていただきます」
「む……」
それは由々しき問題である。
清姫さんくらいの強引さがあればともかく、私では略奪愛など到底望むべくもない。
一度誰かに取られてしまったらそれっきりだ。
「ま、ただ抱かれたいってだけなら何も好きな男じゃなくたっていいさね。ほら、何て言ったっけ、あの目の細いむさ苦しいの。あれなんかうってつけじゃないかい? アンタみたいなべっぴんが頼めば、二つ返事で引き受けてくれるだろうよ」
「あ、あははは……」
いくらデミ・サーヴァントの身とはいえ、逸話に残るほどの性豪を相手取って無事でいられる自信はない。
……そういえば、あの人は普段どうやって過ごしているんだろうか。
特定のパートナーがいるという話も聞かないが。
『あー、ドレイク船長。悪いけど、至急中央管制室まで来てくれ。ぐだ男君が待っているんだ』
「おっと、マスターがお呼びみたいだね。そんじゃ、しっかりやりな、マシュ! 相手はちゃんと選ぶんだよ!」
ためになるのかならないのかよく分からないアドバイスを残し、ドレイク船長は悠々と歩み去っていった。
「……ええ、悩んでいても実入りはありません。行動あるのみです」
私もまた、決意を新たに通路を進む。
そうとも、シールダーが盾にされて何が悪い。
恨むべきは、宝具の一発も自力で耐えられない惰弱な己の弱さであり、サーヴァントのごく真っ当な運用を図った先輩などでは決してない。
「差し当たっては、やはりトレーニングでしょうか」
筋肉でどうにかなる問題かどうかはさておき、とにかく何かを鍛えなければ上を目指すことはできない。
折り返しに差し掛かったとはいえ、聖杯探索はまだまだ続くのだから――――
――――その道行きに光あれ。
盾の英霊は密やかに、胸の裡で依代の少女の幸いを願う。
聖杯への道程は、険しいほどに輝きを増すのだからと。
祈りをここに。
せめて、その最期(おわり)が、希望に満ちたものであらんことを――――
終わり
きのこっぽい文章を書くことを心がけたので、ほんの少しでもその片鱗を感じ取っていただけたら嬉しいです
読了いただきありがとうございました
良かったよ
とても効率的だけどよくよく考えると盾役って大変
ちょっとマシュに種付けしてくるわ
マシュに五百年の妄執つけて相手の単体宝具に合わせてオーダーチェンジする戦法はやめてさしあげろ
ひ弱なアンデルセンを守ってエミヤに繋ぐ優秀なシールダーですよ。
新章きたらカンストまで上げますよ!
引用 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457772754/
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