ニトクリスとアルトリアがわらび餅を食べるだけのショートストーリーです。
キャラ崩壊がある可能性があるため、苦手な方はご注意を。
人理継続保障機関フィニス・カルデアの一角で、サーヴァント二騎が何やら会話をしていた。
片方は、褐色の肌に黄金の装飾をまとい、どことなく漂う高貴な風格を体現したような少女。もう一人は、髪の一部が上向きにはね、華奢な体躯にはおよそ似合わない鎧をまとった、気品に満ちた女性だ。
奇しくも、二人には意外な共通点があった。それは、両名とも民衆を統べる“王”であったということ。そんな二人が話していたのは『今日のおやつについて』。年頃の少女らしく、なんともかわいらしい話題である。
ニトクリス「今日のおやつはわらび餅、ですか。確か、極東の甘味にそのような名前のものがあると聞いています。わらび?の根を使って作るようですね」
アルトリア「ええ。私もかつて日本にいたのですが、その際はあまり食べる機会がありませんでした。今日はマシュから製法を聞いて作って見たのですが…現代ではわらび餅なのにわらびを一切使わないのが標準のようですね」
ニトクリス「…しかし、そもそも私にはわらびが分かりません。御託はいいので早く食べましょう。それにしても、この透明感とハリ、ツヤのある珠のように美しい見た目はエジプトの宝石にも値しますね」
アルトリア「それでは、そろそろいただきましょうか。では…」
二人「「いただきます」」
アルトリアは先ほどから無言で大量のわらび餅をほおばっている。親戚が一堂に会したのに、全員がカニを食べているせいで会話が弾まないのと同じようなものだろうか。
その一方で、ニトクリスの方はといえば、一口一口に目を輝かせながら大切に味わっているようだった。
ニトクリス「むむ…甘さはさほどでもないのに、それでいて物足りなさを感じることはなく、寧ろ非常にすっきりとした清々しい味わいですね。確かに爽やかな見た目とイメージは合致しますが、これは予想外です…」
アルトリア「私も…ハグ、同じことを…ムグ、考えていました。パクゴクン
さあ、次はきな粉をつけていただきましょう」
アルトリアがきな粉をつけたわらび餅を食べた瞬間、ニトクリスは目を丸くし、面食らった様子でその風景を見ていた。
ニトクリス「な?この皿に盛られた砂をい、今これにつけて食べたのですか!?」
アルトリア「ああ、ニトクリスは知らないのですね。それはきな粉といって、乾燥させた大豆の粉末に砂糖を加えたものです。このようにしてっ、はい、こうしてわらび餅につけて食べるんですよ」
砂漠は砂塵が風で舞うため、しょっちゅう口の中に砂粒が入り苦い思いをすることになる。ニトクリスは砂漠の民なのでこの反応は当然と言えばその通りだ。
ニトクリス「…しかし、私にはこれがどうにも砂に見えてしまって…。いけませんね。ええ、これはいけません。私にはとても食べ
アルトリア「いいからどうぞ!」
セイバー、最優のサーヴァントに相応しい剣捌きを思わせる、華麗で無駄の極限まで省かれた動きはニトクリスがそれを拒む隙さえ与えず、その口の中へときな粉がたっぷりまぶされたわらび餅を放り込んだ。
ニトクリス「ん゛ん゛!?ぶ、無礼な!あなたはファラオ相手にこ、このような狼藉が許されると思ったのです…か…!?こ、これは…」
その味を理解したニトクリスの表情が瞬時に変わる。ぱぁ、と雲の切れ間から太陽の光が差し込むように、その面持ちは明るいものとなった。
アルトリア「どうです?」
ニトクリス「絶妙です!独特の香ばしさと舌触りが、シンプルな味わいのわらび餅のアクセントとなり、お互いの味を引き立たせる…!二重三重に味、食感、香りがそれぞれ切れ目なく完璧なコンビネーションを成している。ええ、認めましょう。これは…これは素晴らしい食べ物です!」
アルトリア「気に入って頂けたようで何よりです。それでは室温でぬるくならないうちに、食べて片付けてしまいましょうか」
数日後、中央管制室にいた藤丸立香とロマニのもとにマシュが慌てて駆け込んできた。
マシュ「先輩、後ドクターも。大変なんです!カルデアの食糧庫から大量の大豆と砂糖と、あと片栗粉などが殆んど無くなっていて…。これが無くなったもののリストです」
ロマニ「う、うわー!?僕が大切にとっておいたあんこまでなくなってる…。トホホ」
~fin
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